2017年04月18日

フィリスアフタークエスト <誘導大作戦!人里離れた場所に棲息地を確保してあげよう!>

イルメリア
「…………つまり、よ」

 マグカップを両手で可愛らしく抱え、なみなみと注がれたあったか〜いココアを一口啜ってから、イルちゃんは厳かな口調で切り出す。

イルメリア
「完全に消灯していたものには興味を示さず、チカチカと明滅していたものには近寄ってきていた。そして戦闘中、一番デコイの効果が出ていたのは雷撃系の攻撃アイテムだった。はいフィリス、ここから導き出される答えは?」
フィリス
「はいっ、イルちゃん先生っ!ズバリ!あのモンスター達はピカピカ光るものが大好きっ!」
キルシェ
「…………そんな単純な結論でいいの?だったらどうして他の炎灯には、ってなるけど」
イルメリア
「いえ、実は私も同じ見解よ。少なくとも炎灯の周りの痕跡と、戦闘後の地表の痕跡を見る限りは、接近しているのがあの新種のモンスターなのは疑いの余地はないと思う」
フィリス
「おー、さっすがイルちゃん、目敏いねぇ♪」
イルメリア
「なーんかあんたに言われると褒められてる気がしないのよね…………。ともあれ、他の炎灯に近づかない理由も単純に、魔物除けの効用があるから、と考えればいいんじゃない?けどあの点滅していた炎灯は、その効果も減少、若しくは消滅していたって思うんだけど、どう?」
キルシェ
「…………今まできちんと検証した事はないけど。でも原理的には、光というよりモンスターが嫌う高周波の音を発生させることで、だから、先にそっちへのエネルギー供給が途絶えた、という可能性は高い」
フィリス
「ふぇー、そんな原理なんだ。確かに、光を嫌う闇の種族、ってのはいるけど、モンスター全般にどうやって光を見せるだけで近づかなくできるのか、って思ってたよー…………っと」

 ――――ピシッ!!

フィリス
「あだっ!?いっ、イルちゃんなにすんのぉ〜っ!」
イルメリア
「なにを、じゃないわよっ!あんたさっきから一人でバクバククッキー食べ過ぎなのっ!私達の話に頷いてばかりじゃなく、せめてもう少し建設的な意見を捻り出してからエネルギー摂取しなさいっ!」
フィリス
「えー理不尽ー!だいたいそれ、イルちゃんが提供してくれたものでもないのにぃっ!」
キルシェ
「でも、同意見。この地方だと、麦や甘味は贅沢品。食べた分の知恵は出して」
フィリス
「キルシェちゃんまでぇ〜…………とほほ、わかったよぉ、考えればいいんでしょ考えればっ!」

 二人の真剣な眼差しを受けてしまえば、お腹をくちくして満足していられないのも確かで。
 でもこの場合、どこから思案を重ねていけばいいものか――――。

イルメリア
「…………改めて確認するけれど。キルシェは無理にあのモンスター達を根絶させようとは思ってないのよね?」
キルシェ
「ん。彼らも元々の住処を天災で奪われただけ。それを無視してこっちの都合を押し付けるのは怠慢だって思うし…………実際問題あの強さじゃ、二人がいなくなったらこの村の自警団じゃとても太刀打ちできない」
フィリス
「だよねぇー。そうなると一番いいのは、あの崖崩れの向こう側に帰ってもらうか…………」
イルメリア
「次善として、その近辺に棲息地を限定できる仕掛けを用意するか、ってところね」
フィリス
「うんうん、そこでさっきの、ピカピカ点滅するものに興味を示す、って言う話が生きてくるんだよねっ!うーん、そもそもあの子らってどういう環境で暮らしてたんだろうね?」
キルシェ
「これも伝承の受け売りだけど、あの山は風洞が多く存在していたらしい」
イルメリア
「風洞…………つまり普段は闇に近い所にいた、けれど時折隙間から日差しが零れ落ちてきらめくのを好んで棲息していた、そういう事なのかもしれないわね」
フィリス
「なるほどぉ、今までの生活環境に近しいものに郷愁めいたものを感じてるんだね」

 確かにあの時襲い掛かってきたのも、わたしたちを無条件に敵視しているというより、点滅する炎灯に固執して、それを邪魔するわたしたちを排除しようとしているように見えた。
 おそらく本質的にはそこまで獰猛ではない、知性の高いモンスターなのだ。だったら尚更に、真正面から事を構えるのは愚策というものだろう。

キルシェ
「…………要するに、あの子達の意に適う、元から点滅を繰り返すなにかを作ってしまえばいい?」
イルメリア
「ええ、そうね。それを棲息地の中心に据えて、周りをモンスター除けの炎灯で囲い込む、ちょっと不自由させることにはなるけれど、現状すぐに出来るとしたらそれしかないと思うわ」
フィリス
「だよね、まだ結構数はいたと思うし、それがこぞってあの点滅中の炎灯に集結しちっゃたら、絶対にあの道を使う人に被害が出ちゃうもん!」
キルシェ
「…………場所としては、このあたりがいいと思う」

 キルシェちゃんが地図上で指差したのは、枯れ木の森の最奥に程近い一角。
 雪崩で崩れた箇所にも近く、一括して棲息域を管理できそうなのは利点だし、ギリギリグスタフたちの縄張りにも侵犯しない。

イルメリア
「…………ちなみに、今ある炎灯を改造して、自発的に点滅を繰り返す機能はつけられるの?」
キルシェ
「それくらいは、問題ない。ちょっと嵩張るかもしれないけど、外側にタイマー制御装置をつけてしまえばなんとかなる。でもむしろ問題は、それをどうやって設置するか」
フィリス
「あー、確かに、スイッチ切ってササッと取り付けてくる、と言ってもかなーり危険だよねそれ…………」
キルシェ
「うん。スイッチ自体は遠隔操作に出来るけど、それでも。それに普通に点けっぱなしにするより、燃料の消耗も遥かに激しいと思うから、定期的なメンテナンスが必要って考えると…………」
イルメリア
「ちょっと現実性に乏しいわね。それが機能している内は良くても、停止してすぐに直せる仕組みがなければ、やがてモンスター除けを踏み越えて縄張りを広げてくるかもしれない」

 二人が難しい顔で腕を組む。
 うーん、確かに毎度毎度、あのモンスターの群れを突っ切って整備に行くのとか勘弁〜、って話だし、だとするとあの子達には手の届かない所に設置する?

フィリス
「…………って、そんなお日様みたいに自動で浮き沈みとかしてくれないしねー…………」
イルメリア
「え?ちょっとフィリス、今なんて?」
フィリス
「へ?うんあのね、元々あの子らはお日様が岩場の影からチカチカしてるのが好きだった、って仮定するなら、それに合わせて…………あっ!?」
イルメリア
「そう、それよっ!その点滅機構を空に浮かべて固定してしまえばいい!それくらい、空飛ぶ船を作った私たちには難しい事じゃないわっ!それに空からなら辺り一帯から良く見えるし、遠隔操作できるようにすれば、誘い込みもそんなに危険を伴わずに出来るっ!」
キルシェ
「…………フィリス、お手柄。でも、そんな装置、すぐ作れるの?」
フィリス
「ええっと、どうだろ?要はグラビ機関のちっさいのを作ればいいんだよね?キルシェちゃん、グラビ石の在庫抱えてる?」
キルシェ
「っっ!ある、沢山持ってるっ!」
イルメリア
「ならいけそうね。だったらここからは、お互いの知識を擦り合わせて、より機能的になるようにレシピを調整して、実際に作ってみましょう。念の為2基作っておけば、定期的に交換する事で近づかなくても対処できるようになるし、それは手が多い内にやるに越したことはないわ」
フィリス
「うんっ、そうしよう!キルシェちゃんキルシェちゃんっ、ここに予備の釜ってあるのかなっ!?」
キルシェ
「あ、あるけど…………そこまで手伝ってくれるの?二人も色々大変なんじゃないの?」
フィリス
「あっはは、水くさい事言いっこなし!大体こんな気になる案件ほったらかして戻っても気が気じゃなくて何にも手につかないよ〜!」
イルメリア
「そうね、あんたはひとつの事にしか集中できない猪娘だものね」
フィリス
「ひどっ!?うぅー、まあ否定できる余地はないんだけどさぁー、せめてもちょっと可愛いものに例えてくれてもいいじゃんかぁ〜」
キルシェ
「…………モグラ娘?」
フィリス
「それはそれでめくらってこと!?うーっ、可愛くもないしもっと失礼だと思うっ!」
キルシェ
「ご、ごめん…………」
イルメリア
「ともかくそういう事よ。私だって後は宜しく、じゃ寝覚めが悪いし、きっちりはっきり、安全の確保が出来るまで付き合わせてもらうわ」

 人を踏み台にしてそう言い放つイルちゃんは、かっこいいけど憎らしい。
 でもそんな風に自信満々にウインクなんか飛ばしてる時は、実はわたしなんかよりずっと事態にのめり込んでるっていい加減わかってきたので、それを指摘するような野暮はしない。
 ふふーんだ、たまにはわたしだって、イルちゃんに対して気遣いしちゃったりするんだからねっ!

イルメリア
「…………ねぇ、なんかあんた、失礼なこと考えてなかった?」
フィリス
「いえいえー、滅相もございませんー♪」
キルシェ
「…………フィリス、胡散臭い」
イルメリア
「ったく、まぁいいわ、具体的に作業工程を詰めていきましょう。目標はなんとか今日中にケリをつけてしまうこと、いいわねっ!」
キルシェ
「…………やっぱり、仕切りたがり?」
フィリス
「でしょー、でもこういうとこがイルちゃんの可愛さなんだよっ!」
イルメリア
「だぁぁっ、もうっ、混ぜっ返してる場合じゃないっていってんでしょーがっっ!!」

 結局こんな風に叱咤激励されつつ、わたし達は改めて空飛ぶ点滅照明の機構作りに熱中していく。
 三人ともにアイデアは湯水のように浮かんできて、それをイルちゃんが的確に形にまとめていく。
 最終的にいくつかのパーツを組み合わせることで機能性を高め、それぞれの得意分野に振り分けて――――。

………………

…………

……


「やった〜っ!でーきたーっ!!」


……

…………

………………


イルメリア
「…………それじゃ、飛ばすわよっ!」
フィリス
「いつでもオッケーだよっ!」

 山の稜線を、夕日が赤く染めている。
 その残光も少なくなり、薄暮が舞い降りる寸前。
 苦心の末に出来上がった会心作、「自立移動型氷中炎灯・改(命名キルシェちゃん、わたしは空飛ぶひか〜るくんがおススメだったんだけどなぁ〜)」が、イルちゃんのコントロールによってゆっくりと中空に舞い上がっていく。

 一定の高度を保ちながら枯れ木の森の先まで進むのを、わたしは更に上空から、寒いのを耐えつつ箒に跨って見守っている。
 やがて目標位置に辿り着いたところで、当初の予定通りに点滅スイッチが操作され、鮮烈な輝きが一定間隔で闇を切り裂いて世界を照らす。
 すると――――。

フィリス
「…………わっ、きたきたっ!寄ってきてるっ、あの子達みんなわらわらと集まってきてるよっ!」

 どこにここまでの数が紛れていたのか、数十匹にも及ぶ闇の衣を纏った謎のモンスターが、付近一帯に群がってきて、一様に明滅する光を浴びてどこか居心地良さそうに徘徊している。
 挙句に崖崩れの向こうからも、つられるように数匹寄ってきてしまったけれど、それも計算の内。
 しっかり闇夜に目を凝らして、これ以上近寄っていく姿がない事を確かめてから、わたしは二人の元に舞い戻って――――。

フィリス
「ただいまっ!うーんすごいっ、成功成功、大成功だよっ!」
イルメリア
「そう、良かった。ちゃんと全部集まったか、確認してきたんでしょうね?あんた粗忽なんだから、注意してし過ぎることはないのよ?」
フィリス
「わかってるよぉー、だからこんな遅くになったんでしょ!ほらっ、イルちゃんあっためてー!」
イルメリア
「はいはい。…………そうしたら最後の一仕事ね。キルシェ?」
キルシェ
「うん、村長さんたち、お願いします」
村長
「うむ、任せておきなさい」

 一帯封鎖の為の炎灯設置作業は私たちだけでは手に余るので、素材だけは提供して、普段から作業に慣れている村の人達にお願いしている。
 彼らは一様に逞しく、橇などを駆使して手際よく指示する箇所に素早く炎灯を設置していってくれたので、わたし達はその間周囲に警戒しているだけで良かった。
 ついでに故障していたものも部品を取り換え、修繕して――――。

キルシェ
「…………ん。これで完璧。少なくともこの道が、モンスターに脅かされる危険はほぼなくなったはず」
イルメリア
「そうね、この交易の道が使えなくなったら、フロッケにとっては死活問題だもの。即座に対応が出来て良かったわ」
フィリス
「あ、わたし念のためにもう一回、空から見回ってくるね!」

 満足げな二人を尻目に、再度空に飛び立つ。
 ちらほらと雪が舞い始めて、すぐに芯から身体が凍るけれど、空から見ると今までの作業の成果がわかりやすく光の道として目に飛び込んできて。
 そして一時的に閉じ込める形になってしまった新種のモンスターも、少なくともそうやって棲息地を限定されてしまった息苦しさや不満は感じさせずに、悠々自適に過ごしているようだ。

フィリス
「うんっ、万事問題なし、世は全て事もなしっ!」
イルメリア
「はいはいご苦労様。わざわざ難しい言葉使おうとしなくたっていいのに、あんたバカなんだから」

 イルちゃんの憎まれ口も殊の外に軽く、そして私が降り立つ前からもう炎を準備してくれているあたりが甲斐甲斐しい。
 うんうん、やっぱりこうして目に見えて成果が上がるのは嬉しい事だよね――――。

イルメリア
「さて、これからどうする?急いで帰れば今日中にはエルトナに戻れるけど」
フィリス
「あーうーん、そうだねぇ、あんまりあっちを留守にし過ぎるのも良くない、とは思うけど――――」

 でも、度重なる雪中フライトで、私の身体は少しばかりの炎では温まり切れないほどに冷えてしまっている。
 色々と心臓に悪い事もあって疲れたし、もう一回ゆったり温泉に浸かって、そのままぐっすり眠ってしまいたい気分もあって――――。

キルシェ
「…………もう、帰っちゃうの?」
イルメリア
「え?」
フィリス
「んっ?」

 くいくいっ、と、同時に二人の裾が引っ張られる。
 振り返ると、職人さんたちの撤収に付き合っていったと思っていたキルシェちゃんが戻ってきていて、切ない目つきで見上げていて。

キルシェ
「…………んと、出来れば今日のお礼、したい。もう一回温泉で寛いで、フロッケ名物のご飯を食べてもらって…………それに、出来たら私の家に泊まっていって欲しい。もっと二人と、たわいないお喋り、したい」
イルメリア
「キルシェ…………」
フィリス
「…………にひっ、あははっ、そんな風に頼まれちっゃたら、無碍になんて出来ないよね、ねっ、イルちゃん!」
イルメリア
「ちょっ!?あ、あんたはただ遊びたいだけじゃないっ!」
フィリス
「いいじゃんかー、元々は慰安に来たんでしょわたし達。まさかイルちゃんともあろう者が、自分の言葉を忘れた、なんて言わないよねぇ〜?」
イルメリア
「そ、それはそうだけどっ、でもリアーネさん達にも心配かけちゃうかもだしっ!」
フィリス
「へーきだって一泊くらい。ほら、キルシェちゃんもこの頭でっかちに言ってやって」
キルシェ
「…………どうしても、ダメ?こんな日くらい、二人と嬉しさを分かち合いたい…………」
イルメリア
「っっ、わ、わかったわよっ!でも明日の早朝には帰りますからねっ!それ以上は譲らないからねっ!」

 ふふっ、墜ちた墜ちた。
 なんだかんだでイルちゃんって、可愛い子のおねだりに弱いよねぇ…………って、これじゃ自分を可愛いって言ってるみたいだね、うっかりうっかり。
 でもこういう、生来の頼られると放っておけない善良さ、やっぱり好きだなぁ。

キルシェ
「っっ、ありがとう、イルメリア。私、頑張ってもてなす」
フィリス
「あははっ、そんなに気張らなくてもいいって。もっと気楽に、女の子同士のパジャマパーティー感覚でさっ!」
キルシェ
「――――っっ!?パジャマパーティー…………聞き及んではいたけど、生まれて初めて」
フィリス
「うんうん、わたしも実は初めてだけど、きっとめっちゃくちゃ楽しいよっ!」
イルメリア
「…………そう、かしら?私はなんか今から嫌な予感しかしないんだけど…………」

………………

…………

……


フィリス
「それじゃ、元気でねキルシェちゃんっ!今度はわたしの町にご招待するからねっ!」
キルシェ
「ん、楽しみにしてる。イルメリアも、また今度」
イルメリア
「…………えぇ、お互いに研鑽を積んでいきましょう」
フィリス
「もー、まだむすっとしてるしぃ〜!いい加減機嫌直そうよイルちゃ〜ん!」
イルメリア
「どの口が言うのかしら?あれだけ羽目を外してふざけ回って、挙句の果てに寝てからも人に迷惑ばかりかけておいて…………」
キルシェ
「ん、私もフィリスにお腹、一回蹴られた」
イルメリア
「私は三回よ。その度に息苦しさで目覚めさせられるのに、あんたったら一人でグースカ、これ以上ない幸せそうな顔で寝こけてるって…………ほんっとうにどういう了見なのかしらねっ!」
フィリス
「あーあははー、ま、まぁほらー、意識のない時間の事は無礼講って事でなんとかさぁー」

 …………知らなかったよ、わたしってば滅茶苦茶に寝相悪いらしいの。
 うーん、リア姉となら一杯一緒に寝た事あるのに、一回もそんなクレーム受けた事ないんだけどなぁ?
 やっぱり枕が変わって落ち着かなかったのか、それともリア姉がずっと我慢してくれていたのか…………。

フィリス
「…………あーあ、これじゃあもう、イルちゃんを同衾に誘っても頷いてもらえないかー」
イルメリア
「ぶっ!?あ、あんたねぇっ、まずその不穏な物言いをどうにかしなさいよっ!?」
キルシェ
「…………不穏?同衾って、同じ布団で寝る事、だよね?」
フィリス
「え?うんそうだけど、んー?イルちゃん何が言いたいの?」
イルメリア
「う…………っ、…………はぁー、そうよね、あんたってとことん頭の中がお花畑のおこちゃまなのよねぇ…………」
フィリス
「うん、よくわからないけど、すっごく馬鹿にされてるのはわかるよ」
イルメリア
「いいのよ、あんたはそのままで。ともあれキルシェ、一応は小康状態に出来たけど、今後もなにかあったらすぐに私達を頼っていいからね」
キルシェ
「うん。そのためにも、ちょくちょく遊びに来て」
フィリス
「うんっ、約束っ!ここの温泉気持ちいいしねー、今度はリア姉や先生達とも一緒に来られるといいねっ!」
イルメリア
「ええ。それじゃ帰りましょうか、きっとこの一日で、向こうの調査にも多少なり進展はあったはずよ」

 雪道にキラキラと反射する朝の光の中で、いつまでも名残惜しそうに手を振るキルシェちゃんに対し、帆先の甲板に立って手を振り返す。
 それを温かく横目で見つめながら、イルちゃんがエンジンを起動させて舵を握り、ふわりと船を浮上させていく――――。

フィリス
「…………あぁ、楽しかったぁ。また直ぐに来られるといいなぁ」
イルメリア
「そうね。でもその為には、まず自分たちの足元をしっかり固めないとね。…………もっとも、そうでなくてもまた訪れる可能性はあるかもしれないけど」
フィリス
「へ?どゆことイルちゃん?」
イルメリア
「…………じー…………」
フィリス
「な、なに?そんなじぃっと見つけられたら面映ゆいよー!?」
イルメリア
「…………ううん、なんでもない」
フィリス
「ってなんだよそれぇー!思わせぶりすぎるじゃんかー、なにを隠してるのっ、吐けっ、ほら吐いちゃえ〜っ!」
イルメリア
「きゃあっ!?こ、こらっ、運転中にじゃれついてくるんじゃないわよ危ないわねっ!!」
フィリス
「最初によそ見してたのイルちゃんのくせにー!」
イルメリア
「とっ、とにかくっ、別に大した事でもないし、言うべき必要があるならちゃんと言うわよっ!だから今は気にしないで、自分の道をしっかり見据えて邁進すること、いいっ!」
フィリス
「もーっ、またそうやってお説教して誤魔化すんだからぁ…………。イルちゃんもリア姉もわたしの事子ども扱いし過ぎだよーっ!」
イルメリア
「実際子供なんだから仕方ないでしょっ!大体あんたはねぇっ――――!!」

 結局いつもながらの口喧嘩を連ねながら、わたし達は順調に帰路を辿っていく。
 あの不可思議な、どちらかと言うと哀しみの色が滲んでいるようにも感じられた視線の意味が気にならないと言えば嘘になるけれど。

 でもきっとそれも、イルちゃんがわたしを思ってくれての事だと、それだけは信じられるから。
 だから、うん。今日も明日もその先も、わたしはこうして笑顔でいられるって思えるんだね――――。
posted by クローバー at 13:59| Comment(0) | 日記 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

トリノライン

 初見時からシロネがものすごい好みだったし、体験版もいつもながらに波乱に富んでいて先が気になるつくりだったので、これは買っておきましょう、と。

シナリオ(20/30)

 人を人たらしめるもの。

★あらすじ

 時代は、現代よりも少しだけ科学技術が進歩し、具体的にアンドロイドが人の生活に寄り添って暮らす可能性が大きく膨らんできたころのおはなし。
 様々な形で人の生活をサポートするアンドロイドの実験を兼ねて、いわばアンドロイド特区というべき島で、研究者の父を持ち、ここで生まれ育った主人公は、当然ながらアンドロイドが身近にある生活には馴染んでいました。

 ただそれとは別に、かつて幼い頃に、弱視だった妹・白音が、ちょっと目を離した隙に海難事故で死んでしまった事をずっと自分の責任と思い、どこか自罰的な、前に進むところのない生き方をしてきていて。
 幼馴染の夕梨などは事ある毎に励ましてくれるものの、長い月日を経ても未だにその心にはぽっかりと虚ろな穴が開いたままなのでした。

 そういう主人公を知っていたからか、もう一人の幼馴染で、幼い頃から天才の名を恣にしていた沙羅は、ここ数年主人公達との連絡を絶ち、研究に没頭してきました。
 そうして作り上げたのが、かつての白音の記憶データを受け継ぎ、自立的に思考し学んでいくアンドロイド・トリノ、で。
 人に役立つだけでない、人に寄り添うアンドロイドとして設計され、生きていたらきっとこういう外見だったろうと模されて作られたその子はシロネ、と名付けられ、そして起動実験の為に主人公の家に預けられることになります。

 いきなりの沙羅との再会と、そして思いもよらない展開に最初は抵抗を示す主人公でしたが、シロネの献身的で朗らかな態度にすぐにほだされ、一先ず積極的にこの子を自分の妹として受け入れようと考えます。
 最初の内は主人公の母親も含めて上手くやっていたのですが、しかしシロネはやはりあまりにも白音に似すぎていて。
 そうであるが故に余計に目立つ些細な差異、白音に対する想いの齟齬が蓄積されていく中で、主人公はいずれにかシロネの事を、妹ではなく別の一人の女の子として扱うことでセーフティを紡いだものの、母親の方はそうもいかずに、精神的にストレスを溜め込んで遂に爆発してしまいます。

 亡くなった人の思い出を持ち、その記憶を核に人格を形成し、或いは自我すら発現しているのではないかと思わせる、新世代の新たなアンドロイド・トリノ。
 彼女のいかにも人間らしい、けれど極限的な部分で人間とは異なるありようと向き合い、その齟齬や問題点を解決していこうとする中で、主人公達はそれぞれに人が人である事、人を人たらしめるものの在り処について思いを馳せ、自身の生きざまに反映させていくことになります。

 これは、まるで人そのものを作り上げるようなアンドロイド計画の素晴らしさと恐ろしさを平等に見据えながら、その特異な状況下で人ならではのきらめきや喜びを手にしていく、少年少女達の苦悩と勇気と絆の物語です。

★テキスト

 全体的にはシンプルで、こういう設定の割に小難しい話は極力回避して、あくまでも人とアンドロイドの共存、というテーマの中での心理的機微や反発、忌避などを中心に紡いでいるので、読み口としても理知的というよりは感情的、抒情的な側面がより強い、とは言えると思います。
 ここはいつもそう、と言えばそうですが、あまり丁寧に説明を付与せずに、言葉が足りない中で抱くすれ違いや不信、対立を容赦なくポンポンつぎ込んでくるので、そう考えるに至った内的動因を一々忖度するのが結構大変だったり、ヒロインに対する愛着を一貫的にプラスのベクトルで維持しにくいという弱点はあります。

 ただそういうぶつかり合いの中で見えてくる本質的な希求や、テーマに対する答えの面ではしっかりしていますし、どちらかと言うとその辺に文章量的にも多くのリソースを注いで、取捨選択がきっちりしている書き方とも言えますね。
 文章そのものにわかりにくさやめんどくささは特にないですし、取り立てて面白味があるわけでも、雅趣があるわけでもないですが、独得のテンポで読み手をハラハラさせるドラマチックな雰囲気を作るのは上手いのではないかと感じます。

★ルート構成

 最初は夕梨とシロネの二人が攻略可能で、どちらか一人を進めると、次のルートは強制的にもう一人になり、その上で最後に沙羅ルートが解放される仕様になっています。
 選択肢としては頗るシンプルですが、構成としては多少特殊な色合いがあり、ある意味で最初の二人を選ぶシーンは、その時点で既に、という留保がついている状態であり、哀しみを孕む展開の中で感得した理念を踏まえて、ポイントオブノーリターンを超越していない時点での変化がもたらされる、そういう形式です。

 構造自体が逆巻きなので、最初の二人を踏まえて、という精神性の連関性が具体的に影響している証拠は特になく、作り手の恣意的なコントロールではある、と見做すしかないのが惜しいところですが、ただ完全に最初の二人と沙羅シナリオの位相を切り分けたことは、こちらのルートで向こうではもう取り返しのつかなくなってしまった部分を零さずに進められる余地を作った、という点で、好意的に解釈は出来ると思います。
 ただし、それがきちんと出来ていたら、ですが。

★シナリオ(大枠)

 もしも人と同じように自立的で柔軟な思考を獲得し、三原則に縛られる事なく生きられるアンドロイドが完成したとしたら、それは純粋に存在として人よりも高次の立場にある、というのは、常々議論されてきたことでもあり、そして現状の科学技術の発展と、その粋を接ぎ込むことを鑑みれば必然でもあります。
 ある意味では人類より上位存在となる種族そのものが生まれるという事で、それは社会秩序、食物連鎖的な概念を根幹から打ち崩す、神の領域の冒涜とすら言える所業になるでしょう。

 それでもなお、そういうアンドロイドが人と共存できる未来を望む、というのは、ある意味アンドロイドとして作った精神性に一貫して善意のフィルターを求める、というエゴイスティックな観念であり、およそ研究者としては立派な責任ある態度とは思えません。

 この物語は根本的に、アンドロイドに育てられ、人間不信を募らせているからこそ、逆にアンドロイドに対する妄信が深い沙羅の研究成果が、およそ必然的に発生するであろう軋轢や衝突を当然のように生起させる話、とくくっても決して過言ではありません。
 その上で、アンドロイド、という似て非なる存在を傍に置くことで、普段意識する事のない人を人たらしめている根幹的な部分、人が生きる本質的な意味に対する気付きや目覚めを作り出し、その理に従って、恐れ、怯えながらもあるべきままに前に進む姿を投射する事がメインテーマになっていきます。

 面白いのは、だからアンドロイドはダメ、という切り捨て論ではなく、むしろ人のダメな部分をも平等に的確に論って、それでも、そうだからこそ、という意味と価値を見出す点にあります。
 それはそれでなるほど、と思えるものですが、一方でそういうテーマ性が全編通して色濃く出ているために、ほのぼのした日常とか温かい交流とか、そういう部分はあくまでも山谷のスパイス的、補助的な役割りに回されて、意識のすれ違い、認識の齟齬による対立や信頼の揺らぎなどが主軸になるので、キャラの魅力を引き立てる、という点ではマイナス要素もかなり多いつくりです。

 また構造的に、最初の周のシロネとのいざこざの行き着く先がもたらす展開は、ある意味でもうその時点で袋小路であり、別の位相の物語という形にはなっていて、それ故にか道中もラストの展開も決して純粋なハッピーエンドとは言えない悲痛さ、息苦しさを内包しています。
 ならばそういうマイナス面も含めて、ルートロックされているラストのルートで解決に至るのか、と言われると、これはこれでちょっと中途半端な部分はあり、もう少し複層的なつくりに工夫が出来なかったものか、と残念に思うところもありました。

 それでも物語に籠められたメッセージ性の強さは本物ですし、どこか突き放した部分もあるのですが、それも含めてこの作品らしさなのかなと感じることは出来ます。
 故に評価としてはかなり賛否が割れるタイプとは思いますし、個人的にも諸手を上げて絶賛、その意見に賛成とは言い難い煮え切らないものはあるのですが、全体的にはこのくらいの点数になってくるかなと。

★シナリオ(個別・ネタバレ)
 
 それを踏まえての個別評価は、沙羅=夕梨>シロネというところです。
 どれもしっかり綺麗にまとまってはいますし、そうならざるを得ない、という必然も、大元が恣意的てばあれきちんと整合性は取れていて、個々に水準はクリアしているのですが、やはり惜しむらくはわざわざロックをかけた沙羅シナリオで、全体の悲しみを包括して掬い上げるだけのメゾット、ロジックを構築せず、あくまでもアンドロイドの生成を対に置いての沙羅の救済の物語に集約し過ぎているのがあります。

 以下個々のシナリオをざっくり浚っていきますが、ネタバレ満載になるので白抜きにしておきます。

 まず共通の展開、というか、アンドロイドの自我の創生に対する理由づけの部分に関してですが、一応固有の個人の記憶データを長期間分保持している、という独自性があり、それを核に思考ルーチンも生成されているなら、そこから自我が萌芽しても、というイメージ的な納得は一応あるかな、と思います。
 白音であることを求められつつも、そうすればするほど本来の目的である、主人公や母親を幸せな気持ちにするという部分がままならなくなる矛盾に対し、そこに自己学習の積み重ねによる人格の乖離が加わっての、シロネ、としての固有の人格が組み上がるのは、むしろ人間の側の扱いの問題であり、引いて言えば人の心の難しさ、複雑さを軽んじた沙羅の過失と見做していいでしょう。

 極限してしまえばこの作品のトラブルって、沙羅が独り善がりの狭い視野の中でアンドロイドを作り上げてしまったが故に起きた弊害がほとんどを占めていて、ひたすらに傍迷惑なわけで(笑)、それでもそうしなきゃいけない、という信念の部分の裏付けも、一応ルビィと主人公の消沈、という二重の理由づけはあるものの、その掘り下げはかなり甘いので、この辺沙羅に対する印象を悪くする大きな阻害要因になってるなと思います。
 ともあれ、そうして形成された新たな人格に対して、元々の白音に対する愛情を踏み台にする形で、主人公が傾斜していくのもある意味では仕方ない、生物的な本能も含めて納得のいくところで、その辺むしろ二人きりの生活で実験継続とか、どれだけ沙羅は人間を知らないのか、って話になってきますけどね。。。

 結果的に熟柿の様に結ばれてしまった二人は、けれどその愛情の中で苦しまざるを得なくって。
 特にシロネが抱く、三原則に縛られたアンドロイドの限界と、それを振り切って進みたい自我の葛藤がもたらす苦衷は、決して答えを出させてくれない残酷さを孕んでいるからこそ切なく、結果的に三原則を突き破っての自己崩壊を選べるほどに追い詰めてしまったわけで。
 それに対する主人公の反応も甚だ人間的ではあり、けどその結果として人を人たらしめる大きな根幹である記憶を失ってしまう、というのは実に皮肉な構図だと思います。

 こちらの流れに入った時に、沙羅シナリオで展開された黒幕の野望編みたいな部分が露呈してこないのは謎と言えば謎ですが、シロネがより不完全さを見せてしまった事と、そこで更に推し進めれば、逆に分ドロイドの危険性を訴える側にとっての絶好の例証を与えかねない、という部分で自重せざるを得なかったのかな、と。
 加えて沙羅自体も、まだあの心中的なシーンを見ても原則論から逸脱できない思考の固さを保持しているので、あくまでも外郭そのものからトリノの構成を考え直す、という方向に意識は向かないし、どちらのルートに入ってもそのサポートで手を煩わせることになる、と思えば納得は出来る範疇ですね。

 その上での夕梨シナリオですが、この子って地味にこの作品で一番不憫な気がするんですよねぇ。。。
 そもそも記憶喪失という状況変化がなければ、ここまで近い関係になれなかったのか、という部分では、本質的な夕梨の臆病さに原因を見るべきではあるのでそのへんは自業自得なんですけど、それも一種の、このルートでも度々発現する歪んだ優しさの発露ではありますからね。

 最初は偽りの優しさと救いを求め、それに都合よく主人公を利用する罪悪感から自身のコピーアバターを作ってもらって、という流れは、まあ発端が嘘から始まっていたりとエゴイスティックな部分はあれ基本問題ないですし、けどそこからアバターとの乖離の中で、病に侵されていない健全な思考と、そうでない現実の自分、というギャップに苦しんでいく様も、実に人間的な尊慮の浅さ故ではあったなと思います。
 主人公にしても最初にそれは良かれ、という意識はある以上、無碍にも出来ないし、積極的に受け入れていけばその微睡のような幸せに浸ってしまうのはある意味仕方なくて、でもそこからの夕梨の反発、拒絶に対し、しっかり人の人ゆえの大切な機微を掴み取り直すのは大したものだと言えましょう。

 裏を返せば、丸ごと夕梨を受け入れられたのも、そういう機微を素直に受け止められたのも、記憶の喪失による虚無感の穴埋め、という皮肉な見方も出来ますが、いずれにせよ人の本質は心と記憶に宿る、という部分を、アンドロイドのありようから比定してみせたつくりは悪くない、と思いますね。
 ただし、手を拱いていれば救いのない死病、って点は中々に矯激ではあり、果たして他ルートで、その治療を前向きに受ける、という意識改革を別口からもたらせられる余地があるのか、なければ影でひっそりと諦念を纏ったまま死んでいってしまうのか、という疑念を置かざるを得ない内容だけに、その辺は注視してみていました。

 そして次のシロネシナリオ、これは本当に救いがない話ですねぇ。。。
 記憶喪失の恢復の為に、出来るだけ元の状況にあったほうが、なんて取って付けた理由で、危険をもたらす実験を継続しているエゴにも中々にうわぁ、って話ですが、空っぽの器に対して一方から想う気持ちがぶつけられれば、それは当然再度呼応してしまって仕方ないだろう、ってところで、その確信犯的なやり口はなんとも煮え湯を飲まされたような感覚を伴うところがあります。

 一応その過程で、シロネの自我の形成に対するお墨付きが得られたのはいいものの、そこから二人が生きていく中での意識や理念のすれ違いをいかに埋めていくかがまた難事となっていって。
 一度は主人公がシロネに寄り添うために、自身も意識をデータ化して永遠の時を生きようと考えるわけですが、それが浅慮であった事を日々の生活の中でいつしか気付かされ、けどそう思い至れた時には色んな意味で手遅れ、というのはなんとも切な過ぎる展開です。
 
 脳スキャンのダメージ、という部分でどれだけの蓋然性があるのか、ってのは、一応記憶喪失のダメージがあた上で、というのと、そうでない時、という差異化は出来ているとはいえ、沙羅ルートでも濫用している事なのでなんとも乱暴だな、と思います。
 結局ここではそういう、死か永遠か、という極限的な選択を余儀なくされる状況の中で、人が最期まで人らしくある尊い選択を見せたいだけの強引なありようではあって、見方を変えれば人とアンドロイドの恋など不毛で矛盾に満ちた絵空事なんだよ、と揶揄しているようでもありつつ、それでも遺るものは確かにある、という味付けがなんともシビアではありました。
 もっともそれを味わわされたのは結果的には沙羅、ってあたりもシニカルですし、当然ながら夕梨に対する配慮なんて微塵もないから、この結果を受けて絶望を胸に死んじゃうんだろーなー、ってところで、うん、やっぱり救いがないですね。シロネ大好きなだけに、ここまで切ない悲劇に終わらせてしまうのはぐぬぬ、ってところでした。

 その上での沙羅シナリオも、スタート地点は変わって記憶喪失がない中で、とはなるけれど、文脈的には似通った展開であり、むしろ一番観念的に拗らせている沙羅を更正させるためにどれだけの想いと事実、危険性の発露が必要なのかって意味では呆れてしまうところではあります。
 無論沙羅が好き好んでそうなったわけではない、生育環境的にどうしようもなかったのは差し引くとしても、その辺のフォローが甘いせいで全体的に沙羅ヘイトが強い構成にはなっていて、ここでの変化での挽回がどれだけ出来たのか、正直怪しいものはあります。

 また、ここだと実験がまだ決定的な破綻をきたしていない中で、黒幕的存在の暗躍が強く出ているのですが、そのやり口も稚拙ではあり博打的な要素は強くて、その理念の底の浅さ、浅ましさも含めてなんだかなぁ、というものはあります。
 主人公と共にあることで、ようやくトリノの完成に必要なパーツを得る、というのも、それが当たり前の事であればこそいかにも沙羅らしい皮肉な展開ではあり、そこからの危機を克服していく中で、友人たちみんなの力を借りて、というつくりそのものは王道的ですが、そのそれぞれの想いに対する踏み込みは雑駁なのでもう一歩だなぁと。
 特に夕梨は、一応ラストで助かる可能性もあるのかな?って雰囲気は醸していましたが、もう少し明確に、前向きさ、生きたいという強い想いを補強するなにかを付与して欲しかったと思いますし、シロネの扱いについても結局生起した自我に対する冒涜的な展開も含まれていて辛いものはありますよね、と。

 最終的なボスの抱く理念に関しては、当然そうなるよね、って納得はありますし、それに対してああいう形での説得が効くものか、という狡さはあるのですけど、それは沙羅が作ったトリノシステム特有の持ち味とは言えるのでまあ許せる範囲かな、と思います。
 ただどの道、そこに至るまで危険性を実感的に掴んでおらずにああいう事態を招いてしまうというのは、正直研究者としては致命的な過失に思えるのですけどね。一見現実的に見えて、実は一番ロマンチストっていう沙羅の歪な在り方は、物語としてはいいフックになってますけど、一人のヒロインとしての造型バランスはちょっとなぁ、と。せめてもう少し主人公に対する傾倒への意識を内在的に補強できていれば、とも思うんですけどね。

 ともあれ、総体的には人は不完全であるからこそ人であり、死するからこそ生きる意味がある、という大所的な極論に行き着くわけで、なんともイデオロギッシュであり、かつわざわざ実証的に人の不完全さをはっきりマイナスのベクトルで、緩和条件を置かずに見せてくる、というあたり、いかにもミノリらしい思い切ったつくりだったと思います。
 なので好き嫌いは強く出ると思いますが、物語としての完成度はまずまず、少なくとも上記のテーマを語る上では必要十分だったと言えるでしょう。
 けど一方で、ヒロインズの魅力を引き出す、生かすという部分では欠落しているものが多々あり、完全に補填は出来ずとも、もう少しまろみを持ってマイナス面も可愛げ、人がましさの一種と捉えられる余地を作る努力は欲しかったなと思う次第です。


★シナリオ総括

 総合的に波乱万丈で哀しみが溢れつつ、それでも、の希望をしっかり投影してくるいつものつくり、と言えるのですが、いつも以上にその尖り方が顕著だったと思います。
 テーマの意義をより強調する意味でも、もう少しバランスを取って欲しかったな、と思う部分は多々あり、とにかくシナリオ展開の中での滑落の突然さ、速さが激しいので落ち着かないところはありましたね。
 心を揺さぶる、という意味では中々の話なんですが、その裏付けがやや恣意的な部分も含めて、個人的にそこまで明確に評価できないな、というところです。


キャラ(19/20)

★全体評価

 美点も欠点も、欠落も不備も、どうしようもない現実まで含めてこれがわたし達、と言わんばかりの、プラグマティックなリアリティに満ちたキャラ造型ですので、屈託なく好きになれるか、というと中々難しいものがあると思います。
 シナリオ展開的にもそれぞれのエゴはかなり強くシナリオに影響を与えてきますし、そういう不完全性や愚かさも含めて愛する、という考え方は、物語の中で優しい造詣に慣れ親しみ過ぎていると劇薬的な部分はあります。
 一番ラストでも示唆されているように、アンドロイド的な存在がもたらす心地よさから脱却して、現実の人のありようにきちんと向き合おうという余計なお世話極まりないメッセージ性も含めて理解は出来ても、それが体現できる人がそもそもこの手のゲームに手を出すかいっ!って話ではありますしね(笑)。

 ともあれ、ヒロインズもそれぞれに可愛さは当然ありつつ、けどそれに等しいレベルで毒や不完全さはきっちり付与されているので、その辺どこまで許容できるか、の勝負ですね。私としてはやっぱりそれをマイナスに置かずにはいられないところはありますし、シロネが本当に好きではあるので迷ったけれど、それでも−2までしないだけが、って所に落ち着いてしまうかなと。

★NO,1!イチオシ!

 うーん、まあそれはシロネなんですけど、イチオシ!と言えるほどに魅力的かは微妙だったかもなぁと。
 勿論表面的な部分での甲斐甲斐しさ、無邪気な愛らしさは素晴らしく可愛いんですけど、情緒的な部分での不安定さはどの局面でも色濃くて、どうしても人のありようと寄り添っていくにはまだ何かが足りない、というのははっきり見えてしまうところではあります。
 個別もああで、他ルートだとほぼ物語から追い出されてしまう事も含めて、好きでしたけど食い足りない、というのが正直なところです。
 あとね、あのサイズで77とかないっすわ。。。数字詐欺ですわ。

★その他

 夕梨も嫌いじゃないし、本質的な優しさはうん、ってとこですが、それを台無しにする刹那的、かつ虚無的な観念の在り方が難しかったですよね。あれはせめて、真っ白でないところで寄り添ってあげないととは思います。
 沙羅に関してはある意味で誰よりも感性が歪だからこその天才性であり、その抜けた感じの可愛さもあるはあるけれど、基本的に迷惑しか振り撒いていないのでうーん、ですよね。

 そして黒幕とか論外の軽さだしなぁ。もう少しこの辺は重厚さがないとわざわざ出す意味がないというか。


CG(18/20)

★全体評価

 基本的には美麗で躍動感があって肉感的で、いつもながらに綺麗だなー可愛いなーとは思いますね。
 キャラでちょっとずつデザインが違うあたりも個性を反映していると言えばそうですが、極端に素晴らしい、というほどまでではなく、それにやっぱりボインばっかりかよ!って歴年の不満も含めて評価的にはここですけれど、出来は安定して良かったと思います。

★立ち絵

 いつもながらに立ち絵と1枚絵の切り分けが難しいつくりですが、一応ポーズとしては後ろ向きまで含めてヒロインはベースとして4種類になるのかなと思います。
 それぞれに上手く手の添え方などで個性を反映させつつ躍動感もあり、この辺は流石の仕事だなと思いますね。
 お気に入りはシロネ正面、やや左、見返り、夕梨前かがみ、沙羅正面あたりでしょうか。

 服飾は立ち絵限定で考えると制服と私服、くらいなんですよね。1枚絵では水着とか裸ワイシャツとか寝間着とかそこそこあるんですけど、その辺はちと残念な所。
 お気に入りはシロネ制服、私服、夕梨私服、沙羅制服かな。

 表情差分はそれなりに多彩で、ある程度遊びも含めつつ、モーションの力もあり実に表情豊かに見せてくれます。
 お気に入りはシロネ笑顔、きょとん、照れ、苦笑、しょんぼり、夕梨笑顔、ニヤリ、怒り、沙羅ニヤリ、照れ目逸らし、拗ね、怒り、哀しみあたりですかね。

★1枚絵

 スチル登録としては284枚と大ボリューム、ただ構図的には似通ったの一杯ありますし、背景的な要素が強いのも多いのでいつもながら既定の枠組みで判断しにくいつくりです。

 お気に入りも選定し辛いつくりなのですが、とりあえずシロネの朝起こし、振り返り、あと黒スト関連Hシーンに沙羅の水着Hなんかは中々に好みでした。


BGM(18/20)

★全体評価

 いつものように荘厳で神秘的な曲が多く、今回は悲劇色がいつもより強い分そのあたりも加味して、というところですね。

★ボーカル曲

 全部で4曲。おのおののヒロイン別EDが定番化してきたのはいいような、聞き込みが大変なような。。。
 OPの『Tetra』はいかにもミノリらしい、閉塞感からの脱却、崇高な想いとそこに宿る哀しみを丁寧に掬い取った中々に雰囲気のある曲だと思います。ただガツンと来るほどではなかったなと。
 EDの中では、シロネEDの『rettRE』が一番好きですかね。あの切なさと一途さがたんまりと詰まった旋律と歌詞は、あの救いのない展開の中でそれでも、と思わせる何かを助長させる強さがありました。
 夕梨EDの『fil……』の静けさや、沙羅EDの『voliere』の闊達さも悪くないですが、そこまで特筆するものもなかったかなという感じです。

★BGM

 全部で50曲、中には似通ったアレンジ版などもあるので実質はもう少し少ないですが、いつもながらに量的には水準を遥かに凌駕してきますし、質も安定して抒情感たっぷり、染み入るような旋律が胸に響きます。

 お気に入りはめんどいのでナンバー拾いですが、1,2,5,6,7,9,11,13,14,16,22,23,26,29,33,34,36,38,39,42,47,48,49あたりが気に入りましたね。手抜きですみません。。。


システム(9/10)

★演出

 いつもながらの独自色満載で、全体的にシームレスなつくりにも磨きがかかっており楽しめます。一部のモーションの重さはあるのですけど、それも含めて臨場感はたっぷりありますし、エロスも相変わらずいい感じにえっちいですし特に文句はないですね。
 ムービーも少しずつ昔みたいなゴージャスなつくりに近づいてきていて、今回は全体の雰囲気のバランスも良かったですし目を引きました。

★システム

 一方でここ毎回いっつも演出の良さの足を引っ張るシステム面の進化のなさ。
 まあ基本的に不備はないと言えばそうなんですが、操作性でかなり面倒なところが多いですし、動きも重たくてもう少しなんとかならんか、とは思ってしまいますよね。


総合(84/100)

 総プレイ時間16時間くらい。共通が5時間、シロネと夕梨が3,5時間、沙羅が4時間くらいですね。
 ボリュームとしてはそんなになく、その分物語の展開は異様に速くて、その上に心をぐさぐさ傷づける緩急の激しさがあるので、ある意味ではハラハラとどんどん先を読み進められる緊迫感があります。
 一方でキャラ性、シナリオに関してももう少し補完しておくべき部分は目立ちね全体の整合性で破たんはしていないものの、いかにもテーマに寄り過ぎて、プロットそのままに遊びが少ない、と思えたので、その辺は課題になってくると言えるでしょう。何事もバランスが大事だと思うのです。

 テーマや、それを踏まえての思索の余地などではかなり面白味のある作品ですが、それをなし得るだけの思い入れを持ちづらい強引なつくりでもあるので、その辺で賛否は別れそうです。少なくともハッピーエンド至上主義の人には向かない作品と思いますし、悲劇耐性が強く、かつ小難しい話が好きって人にはツボに入るタイプではないかと思います。
 個人的にはうーん、シロネが本当に好きだっただけに扱いがなぁ…………と憾みに思うところはなくもなく、って感じですかね。
posted by クローバー at 07:23| Comment(0) | 感想 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2017年04月17日

君の永遠はきっと歌の中 消えない

 甘夏アドゥレセンスはサーニャをクリアです。
 とりあえず体験版部以降の共通展開としては、思ったよりシリアスなネタ突っ込んできたな、とは思ったけれど本質的にはそれを踏み越えてのロック魂、音楽の価値を強く再認識して絆を深めるイニシエーションとしての側面が強いですし、そういう在り方をマイナスに思わせないキャラクター性も打ち出せていたので、この辺は序盤よりはしっかりしてるな、と思いましたね。

 ただサーニャの立場とかもそうですが、大枠の危機の部分では非常に大味で、あまりにも学生ネタらしくない大仰さと無鉄砲さが目立ち過ぎるし、そのくせそれに対するカウンターパートが用意されていなかったというあまりにもな都合の良さもあって、その辺はもう展開のダイナミズムありきなんだなーと諦めてはいます。理屈面での納得をぶん投げれば素直に楽しめますしね。。。
 しかし結局、私の中でロックものとなると、どうしても比較対象として、原点にして至高たるキラ☆キラが頭に過ぎってしまうのでねー、あの等身大の日々の中に潜む苦悶や葛藤、それを吹き飛ばすためのロック、という緻密で切実なありようと、ひとつひとつの積み重ねの丁寧さを思うとどうしても、ってなりますし、むしろキラ☆キラをリプレイしたくてたまらなくなる。。。

 ちなみにタイトルもキラ☆キラのきらりルート2の神曲、『a song for……』から取りました。この作品にしても語りたいテーマとしてはこの辺に収束してくるわけですけど、やっぱりそこに至る蓄積の重み次第で、感じ入る度合いにも、ってのはありますからねぇー。
 ただこの作品も、ロックをテーマにしている分ボーカル曲に力入ってるのは好印象ですね。

 んで個別としてのサーニャですが、とりあえずどこから個別だったのかがイマイチわからんのよね。。。やっぱりこのロシア遠征展開って個別ならではなのか、それともある程度共通しつつ、その中で誰と向き合うかが変化するだけなのか、それは次をやってみないとですな。
 ヒロインとしては美味しい要素は沢山持っているし、それを最低限とはいえシナリオの中でしっかり生かしてはいるので悪くはない、ですけど、逆に言うとめっちゃテンプレ感山盛りだなぁ、ともなりますね。そしてロシアリスペクトが一層強いのはなんででしょうね(笑)。
 ともあれ次はリョウになります。こっちは生徒会長が色々関わってきそうだなー。

 とか言いつつ、実は結局我慢できずに天結いの体験版をプレイしてしまった私。。。
 地味に去年珊海王の体験版やろうとしてPCクラッシュしたトラウマが色濃いのですが(笑)、幸い今年は無事に起動、サクッとプレイしましたが、いやーもううん、フィアの可愛さ絶品すぎますね。
 太平楽で朗らかで感情が豊かで前向きで、本当に表情見てるだけで可愛さに蕩けられますし、期待通りにCVのマッチングも完璧。そして衣装がもたらす健康的なエロスと非の打ちどころない感じで、益々楽しみになりました。最後にすわシーン突入か?ってとこで寸止めなのがぐぎぎ、でしたが、製品版で楽しめって事ですね全裸待機して待ちます!

 ゲームシステム的にもマイスターシリーズってこうだったなー、ってのをそのまま踏襲している格好で、今後プラス要素も出で来るかもですが、最近の空回りっぷりを見る限り、ヘンに奇を衒うより元々好評だったのをそのままスライドした方が無難な気はします。ここまででも普通に面白いです。
 シナリオ面では基本フィアゲーで、その力を増幅させるために他のヒロインともエロエロするぜ!ってことみたいですし、何周もしなくても済みそうなのは個人的に助かりますし、ゲームシステム的にどのくらい時間かかるかわからないからプレイ順は後ろにするでしょうけど、五月の中では相当に楽しみにしています。
posted by クローバー at 20:23| Comment(0) | 日記 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2017年04月16日

あぁ空回り

 上手く隙間時間を使えれば、とか思っていたけれど、実際はあれこれ別事でごたついて何も出来ないいつものパターン通りでしたとさぐぎぎ。まあ来週はそこそこ余裕ある筈なので頑張るです。

 そいや書いたか忘れたけれど新妻もマスターアップしてましたね。地味にニュートン延期してしまったせいで、4月の中だとこれが一番安定して楽しみだったりはする。ここのつが面白いといいんですがねー。
posted by クローバー at 18:40| Comment(0) | 日記 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2017年04月15日

ロックとはなんでしょう?

 甘夏アドゥレセンスはさしあたり体験版部までサクッと終わらせました。
 この辺までは一度やってるから超速で、という思惑はあるのに、ついついナツと天音のボイスに聞き惚れて中々進まない罠ときたらね(笑)。でも本当この二人は私の中で、キャライメージと声質がいい感じに噛み合ってて好き。

 ただやっぱりシナリオはなんつーか破天荒というか無軌道というか、色々と無茶しやがって…………!って感覚は強いですね。専らノリと勢いだけ、ってのはわかってたつもりですけど、改めてプレイし直してぽっと出の校長何様ぁ〜?って感じにはどうしてもなるわこんなの。。。キャラはロックでもいいけど、シナリオまで履き違えたロックを貫かなくてもいいんですよ?
 とまれ、最初はサーニャからにするつもりです。上記二人は後ろに取っときたいし、地味にサーニャはシナリオ面で一番メインの可能性高し、というか、公式説明のロックバンドを作ってロシアに飛躍!的な展開は、実はこのルートでしか実現しませんでした〜、的誇大広告であってもちっとも驚かんし?って雑駁さではありますが、そこはもうあまり拘らない方向で、あくまでもキャラ主体で進めます。つってもいつも通り、本格始動は週明けからなんですけどねあっはっはー。

 そしていつもよりだいぶスケジュール遅れな感じでようやく出てきた天結い体験版。
 んーすごくやりたいけど、どうせいつも通りならボイスなしだろうしなぁ…………と思って公式見に行ったら、

 「今回の体験版はボイスも収録しております」

 っっ!?や、やりたい…………っ!絶対このフィアボイス甘々でかわゆすぎて耳が蕩けるに違いないんだぜ…………!

 ついでにはにデビ!も体験版出てるけれど、こっちはんー、多少未練はあるけどスルーかなぁー。
 正直時間があれば体験版くらいは、って思うのだけど、まずその時間を捻出できる状況じゃ全くないという悲し過ぎる現実がありますのよね。それより先にやりたい、やらなきゃいけないゲーム山積みですしとほほ…………。
posted by クローバー at 17:00| Comment(0) | 日記 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする